Heel impact forces during barefoot versus minimally shod walking among Tarahumara subsistence farmers and urban Americans
Ian J. Wallace, Elizabeth Koch, Nicholas B. Holowka and Daniel E. Lieberman
Royal Society Open Science 5(3)
March 2018
Impact factor:2.243(5yr:2.243)
DOI 10.1098/rsos.180044
研究デザイン:クロスオーバー試験
選定理由:
ハーバード大のリバーマンのラボから出た最新の論文であったので、現状どんな方向性なのか確認し、自身の「はだし」研究の参考にするため。また、原住民(はだしに近い生活を送っている人々)の動作分析データはほとんどなく、貴重であるため興味を持った。
abstract
Despite substantial recent interest in walking barefoot and in minimal footwear, little is known about potential differences in walking biomechanics when unshod versus minimally shod. To test the hypothesis that heel impact forces are similar during barefoot and minimally shod walking, we analysed ground reaction forces recorded in both conditions with a pedography platform among indigenous subsistence farmers, the Tarahumara of Mexico, who habitually wear minimal sandals, as well as among urban Americans wearing commercially available minimal sandals. Among both the Tarahumara (n=35) and Americans (n=30), impact peaks generated in sandals had significantly (p<0.05) higher force magnitudes, slower loading rates and larger vertical impulses than during barefoot walking. These kinetic differences were partly due to individuals’ significantly greater effective mass when walking in sandals. Our results indicate that, in general, people tread more lightly when walking barefoot than in minimal footwear. Further research is needed to test if the variations in impact peaks generated by walking barefoot or in minimal shoes have consequences for musculoskeletal health.
Introduction
人類に関連する種族は、600万年前から「はだし」で歩いたり走ったりしてきた。サンダルやモカシンのような最小限の形状の履物は、おそらく5万年前に発明されたが、分厚く、踵にクッションがあり、トゥスプリングとアーチサポートのような洗練された特徴の”シューズ”が一般的になったのは、ちょうど半世紀前からである。それらが快適さを強化して、保護機能を提供するので、最新のサポート機能満載のシューズは人気がある。だが、足の構造とバイオメカニクスに対するシューズの影響のいくつかは人間の足が進化してきた機能的な環境とミスマッチがあるかもしれない。このミスマッチ仮説によると、いくつか靴のデザインのとある特徴は、弱い足の発達と足底筋膜炎、疲労骨折と変形性関節症を含むいくつかの下肢筋骨格障害に貢献する可能性がある。現代のシューズと病理学的リスクとのはっきりとした関連性は十分に検証されていないが、「はだし」で歩いたり走ったりすること、もしくは、より一般的にはミニマリストシューズ(裸足感覚シューズ)の健康効果の可能性について、社会と科学分野での関心が持たれている。
「はだし」とミニマリストシューズの健康効果に対する関心の広がりにも関わらず、ミニマリストシューズと「はだし」の移動動作のバイオメカニクス的な違いについてほとんど研究されていない。ミニマリストシューズの市販品のほとんどが”はだし感覚シューズ”(表現が矛盾しているが)として市場に出されるが、どんなに最小限で、どんな種類であっても足裏を覆えば足底感覚のフィードバックを必然的に制限し、着地時と地面に接地している間に足の機能へ影響を及ぼす可能性がある。したがって、「はだし」とミニマリストシューズ条件における歩行と走行の違いについて検討することは意味がある。
歩行は二足での移動動作で最も一般的であるが、ミニマリストシューズと「はだし」を比較したほとんど全ての先行研究はランニング(特にヒールストライクの瞬間)に着目している。しっかりしたクッション入りのランニングシューズをいつも履いている人はほとんど踵から着地する。踵着地は、地面と接地時に完全に減速する下肢の有効質量の瞬間的な交換から地面反力鉛直成分の急激なピーク(インパクトピーク)を生み出す。一方で、「はだし」ランナーはより多様な接地パターンを示すが、しばしば下肢の有効質量と大きな足関節の弾性によって、インパクトピークを出さずに前足部やミッドフットで着地する。しかしながら、ミニマリストシューズがランニングにどのように影響するか明らかになっていない。ミニマリストなサンダルを履いている2つの伝統的な原住民であるメキシコのタラウマラ族とタンザニアのハダザ族は、ミッドフット着地であるが、ミニマリストシューズを履いてランニングするアメリカ人は50%近くが踵着地であった。
先行研究はランニングに着目しているにも関わらず、歩行時の「はだし」とミニマリストシューズの影響は多数の人々にとってより必要とされていると考えられる。アメリカ人の約7%が趣味として定期的に走るのに対して、平均的なアメリカ人は1日およそ5000歩、歩く。さらに、履物に関係なくほとんど全ての歩行でインパクトピークが生み出される踵着地が含まれる。特に歩行中のインパクトピークが、特定の筋骨格障害の一因となることが、よく議論されるが、少ないサンプルサイズの2つの先行研究は、クッションとサポート機能があるシューズの方が「はだし」よりもインパクトピークが大きくなることを示した。しかし、ミニマリストシューズを履いた歩行でインパクトピークがどのように生み出されるか、これまでのところほとんどわかっていない。もっとも関連の可能性があるデータは、「はだし」かバッファロー皮で作られたミニマリストサンダルを履くインド人に加速度計を踵に装着し、着地後の足部の減速を計測したWillemsらの研究である。地面反力は計測していなかったが、この研究は歩行時の着地後の足部の減速が、2つの条件共に似たような着地衝撃のピークを示し、はだしとサンダルを比較してほとんど違いがなかったことを明らかにした。「はだし」とサポート機能付きシューズのインパクトピークを比較している2つの先行研究の調査結果と相反するこの研究の妥当性は、地面反力データが欠けていることで制限され、さらなる研究の必要性を強調している。
ここで、ミニマリストシューズと「はだし」で歩く時、ヒトがインパクトピークを生み出す方法に対する洞察を深めるために、我々は、2つの異なる対象から収集された地面反力と下肢の運動学的データを分析する。1つ目は、ミニマリストサンダル(ワラーチ)を履いている原住民で、メキシコのシエラ・マドレ・オクシデンタルに住むネイティブアメリカンのタラウマラ族を調査した。タラウマラ族(彼らは自らをララムリと呼ぶ)は、大部分がトウモロコシと大豆を栽培して食べる自給農民である。タラウマラ族は長距離を歩く時に通常、硬い材料と革紐で作る伝統的なサンダル(ワラーチ)を履いている(fig.1)。過去の民族誌によると、タラウマラ族はしばしば「はだし」で移動していたが、今日になると「はだし」歩行はあまり見られなくなった。約半世紀前に、タラウマラ族は生皮の薄い端切れやなめし皮からサンダルの底を作った。現在では、世界中の多くの人々の間で独立して生じたデザイン革命にもなった、サンダルの底の大部分は車のタイヤの表面から作られる。他の点では、タラウマラ族のサンダルは、過去の民俗学者や考古学的な視点で作成された文書に書かれたものとほとんど違いがない。
ミニマリストシューズを普段、履いていない集団から得られる結果と、タラウマラ族の調査結果が一致しているかどうか検討ために、はだしと、運動靴の靴底の素材としてよく用いられているEVAの底でできた市販のミニマリストサンダル(ルナサンダル)で、都会に住むアメリカ人の歩行時の運動学と動力学の計測も実施した。これらの個人全員は、通常、クッションとサポート機能があるシューズを履いており、「はだし」かミニマリストシューズで歩くことは稀である。
同時に、タラウマラ族とアメリカ人のデータからは、2つの別々の集団で独立した2つの仮説を検証するのに用いられた。1つ目に、両方のグループにおいて、踵着地の瞬間に発生するインパクトピーク(大きさ、loading rate、鉛直成分の力積)が「はだし」とミニマリストシューズで、似ているという仮説を検証した。2つ目は、インパクトピーク(有効質量、着地速度、下肢関節屈曲)に影響すると言われている要因がそれぞれの集団の履物条件の間でも当てはまるという仮説を検証した。
https://runblogger.com/images/2011/06/foot-strike-running-shoes-barefooting-injuries-and-biomechanics-the-importance-of-both-science-and-anecdote.jpg
Material and methods
Participants
タラウマラ族:男性35名 体重64±10kg、身長1.60±0.06m 年齢41~75歳メキシコのチワワ州の南西のSinforosaとUrique峡谷周辺の地方から出身。
多くの若いタラウマラ族が今日クッションとサポート機能付きのシューズをしばしば履いているため、伝統的なミニマリストサンダルを履かない集団を除外するために、募集対象を40才以上とした。参加者は地域住民の助けを借りて、実験が行われたGuachochiとCerocahuiの町のクリニックへ送迎された。ワラーチ以外の履物を着用してきた者は、計測されなかった。
現在、下肢のケガまたは異常歩行に関する何らかの証拠を報告、またはそれらの兆候が現れた者も除外された。
研究課題は男性と同じように女性にも適用されたが、クリニックに来ることを嫌がったため、女性を計測することができなかった。
アメリカ人:男性30名 体重79±10kg、身長1.78±0.07m 年齢40~77歳
これらの被験者のデータは、ハーバード大学の人類進化生物学部の、骨格生物学と生体力学のラボで集められた。
全ての被験者は、ララムリ(タラウマラ族の言語)、スペイン語または英語でインフォームドコンセントに基づく同意を得た。
Experimental design and measurements
鉛直地面反力は、被験者が各自の至適速度で薄型(1.5cm)のサンプリング周波数100Hzの足圧計(emed-q100、Novel社製)の上を歩くことで計測された。
https://gyazo.com/ba3e2d0df40ff9815b4069eb8416df96
データ収集の前に、通常歩行(歩幅を急に短くしたり、延ばしたりして歩行速度を変えることなく)を維持して右足でセンサーエリア(48cm×32cm)を踏めると感じる様になるまで、被験者は足圧計の向こう側へ歩く練習をした。一人の被験者につき少なくとも10回の練習が必要であった。大股、小股で歩かない様にするため、足圧計で足を置く位置である足元を見るよりも、前を見て歩く様に指示した。通常歩行でデータが集められることを確実にするために、足圧計の前後で少なくとも3歩歩く様にした。シューズ試行では、タラウマラ族群は彼らが毎日使う伝統的なサンダルを着用したが、アメリカ人群はタラウマラ族のサンダルと似た様なデザインで市販されている、車のタイヤではなくEVAで出来たミニマリストサンダル(Mono、ルナサンダル社製)を実験時に提供した。データはそれぞれの群で「はだし」試行5回とシューズ試行5回から収集した。休息については適宜取らせた。被験者が足圧計を見てしまったり、センサーエリアに着地出来なかった場合、その試行は破棄された。
運動学的データを記録するために、7.5mmの3MP M12レンズ(Back-Bone社製)付きの2台のビデオ・カメラ(Hero4、GoPro社製)が、用いられた。足圧計の2m外側でおよそ70cmの高さに置かれた1台のカメラは120Hzで記録した。もう一台のカメラは240Hzで記録され、足圧計から50cm内側でおよそ10cmの高さに置かれた。足部が足圧計に着地する瞬間に発光するトリガーを用いて、カメラと足圧計を同期した。被験者の右大転子に反射テープを貼付し、外側のカメラデータは水平方向の歩行速度を計算するために用いられた。外側のカメラから踵着地の瞬間の、矢状面での膝屈曲および足関節背屈角度を測定するために、下肢運動学的データは、被験者のサブセット(タラウマラ族24名、アメリカ人21名)から集められた。これらの被験者は、反射テープマーカーを右下肢の以下の場所に貼付し、膝を露出させた短いズボンを着用した:大転子、膝関節中心(大腿骨外側上顆と脛骨外側プラトーの間)、外果と第5中足骨頭(補足資料、S1)。内側カメラのデータは内果にもう一つマーカーを貼付し、この位置を捉えることによって踵着地のインパクト速度を計るために用いられた。Liebermanらの研究に基づき、インパクト速度は内果の位置変化を踵着地直前の4フレームの時間変化で除して算出した。全てのカメラデータは、ImageJ(ver. 1.50i、NIH製)で使用して分析した。体表マーカーがカメラから隠れてしまった時、その試行は破棄された。 1回の踵着地ごとに、グラフ作成ソフト(Igor Pro software,ver4.07,aeWaveMetrics社製)を用いて、インパクトピークの大きさ、loading rate、地面反力鉛直成分の力積を算出した。データの数値は個人間の比較のため、体重で正規化した。鉛直成分の力積はインパクトからインパクトピークまでの区間(Δt)を時間積分して算出した。インパクト速度(Δv)が計測された試行では、Liebermanらの先行研究で用いられた以下の方程式で有効質量(Meff)を算出した。: インパクト開始から終了までの鉛直成分の力積=Mbody(重心の速度変位+重力加速度×かかった時間)
F= ma
撃力(インパクト):野球においてバットでボールを打つときや、ゴルフにおいてクラブでボールを打つときのように、短い時間だけはたらく大きな力を撃力といいます。
ですから、運動方程式は、
両辺に Δt を掛けて、
mv' - mv = FΔt
この式の右辺はまさに力積であり、この式は運動量の変化は力積に等しいということを示していることになります。
物体の運動量の変化は、その間に受けた力積に等しい
Meff=インパクト開始から終了までの鉛直成分の力積/速度変位+重力加速度×かかった時間
Footwear stiffness
インパクトフォースが「はだし」とミニマリストシューズを履いた歩行では似ていると予測した第1の仮説を検証するが、もしこの仮説が歪められ、そしてインパクトピークが履物に有意な影響を受けるとわかれば、サンダルの底が異なる素材でできていため、その影響はタラウマラ族とアメリカ人との間の値の変化をもたらすことになるかもしれない。特に、他の全ての変数を一定に保ち、インパクト期間中に地面と運動量を交換する下肢の効果質量は、より大きな鉛直方向の力積を産み出す柔らかいソールのどんな種類のサンダルであっても、ゼロまで減速しなければならない。タラウマラ族の被験者が着用しているサンダルとアメリカ人被験者が着用する市販のサンダルの違いを計測するために、それぞれの種類のサンダル3足ずつが、500Nに調節されたInstron4201材料試験機(Instron社製)を用いて、圧縮機で荷重された。タラウマラ族のサンダルは本研究の3名の被験者から購入した。タラウマラ語サンダルは、研究の3人の被験者から購入した。ステンレス製の円筒形のポンチ(直径12mm)をヘッドに取り付けて、圧縮力を加えることで、各々のサンダルの5セクションをテストした。最大変位量は、セクションの厚みの10%にセットした。荷重速度は、1秒あたり最大変位量の3%だった。データは、100Hzで記録された。スティフネスは力–変位カーブの線型部分から算出した。 Statistical analyses
効果質量、インパクト速度と関節角度といった、インパクトピークに関する変数だけでなく、履物の条件、固定効果として履物の条件×集団の交互作用、ランダム効果としての被験者属性を含めた一般化線型モデル(GLMMs)を用いた。歩行速度はインパクトフォースの影響をよく表現しているため、共変量として含まれた。タラウマラ族はアメリカ人よりも平均して、ややゆっくり歩く傾向があった。
(平均(s.d.)歩行速度(m s-1):
タラウマラ族:「はだし」83ステップ0.95 (0.17)、サンダル88ステップ0.96 (0.17)
アメリカ人:「はだし」50ステップ1.06 (0.14)、サンダル56ステップ1.06 (0.15)
履物の4条件×集団の属性を最小二乗法で比較するために、Tukey HSD post hoc tests を用いた。混合モデルネスト化ANOVAが、タラウマラ族とアメリカ人のサンダルのスティフネス の違いを比較するために、サンダルの種類ごとにサンダルの標本番号をネストしたランダム要因とし、用いられた。スティフネス値は、データの正規性と変量の均一性を改善するために分析前に対数変換した。統計的有意性はp < 0.05とし、すべての統計分析は、JMPプロ・ソフトウェア(v. 11.0、SAS研究所社製)を使用した。
Nested ANOVA:一元配置のバリエーションとして、各要因(グループ)内にいくつかのサブグルー プがあり、そのサブグループ内に複数の標本値が含まれているという場合、入れ子型 (nested)配置と呼ばれる。 Results
Footwear stiffness
タラウマラ族の伝統的なミニマリストサンダルはアメリカ人被験者が着用した市販のミニマリストサンダルより、少なくとも3.4倍硬かった (p < 0.0001)。圧縮テストでは (figure 2)、スティフネス値がタラウマラ族のサンダル300-480N/mmに対し市販のルナサンダルはたったの55N/mmであった。
Heel strike kinetics and kinematics
タラウマラ族のサンダルでの歩行と「はだし」での歩行で生じたインパクトピークは有意に異なっていた (tables 1 and 2; figure 3).。タラウマラ族の「はだし」歩行は、急激なloading rateと小さい鉛直成分の力積が特徴的なインパクトピークであったが、統計的に歩行速度の変数を調整してみると、サンダル歩行ではloading rateが41%低く(p < 0.0001) 、力積が 48% 大きかった (p < 0.0001)。さらに、タラウマラ族の歩行ではサンダルの方が、インパクトピークの大きさは11% 大きかった(p < 0.0001)。このようにインパクトピークに対する履物の影響が地面と身体の間の運動量の交換における有意差を生む原因となるため、サンダル歩行では32%大きな (p < 0.0001)身体の一部 (有効質量)がインパクトの期間中に停止する。 関節の運動学的データでは、タラウマラ族はサンダル歩行だと2%大きく足関節を背屈して着地する(p = 0.003)が、膝関節角度は履物による有意な影響がなかった。
Table 1.
履物の条件と集団間の力学的、運動学的データの違い。セルに書かれた値は最小二乗平均±s.e.でステップ数が解析された。最小二乗平均と標準誤差は、履物条件、集団、履物条件×集団の交互作用、固定された影響として歩行速度、ランダムな影響として被験者のアイデンディティを含む一般化線型モデル (GLMMs)で生成された。インパクトピーク変数と有効質量は単位を体重とした(bw)。同じ文字で接続しない値は、Tukey HSD post hoc 比較に基づいて有意差があった。有意差を示すシンボルマークはf footwear condition (†), population (*), the footwear condition × population interaction (‡) and walking speed (§)であった。
Table 2.
Table1で報告された履物条件と集団の力学的、運動学的変数における効果量の違い。セルの値は最小二乗平均の差±標準誤差の差, 最小二乗平均の差における95% 信頼区間
の値とTukey HSD post hoc comparisonsのP値
タラウマラ族と同様にアメリカ人のサンダル歩行でのインパクトピークも「はだし」歩行とは有意に異なっていた(tables 1 and 2; figure 3)。統計的に歩行速度の変数を調整してみると、「はだし」条件と比較して、loding rateは68%低く(p < 0.0001)、力積は77%大きかった(p < 0.0001) 。さらに、インパクトピークの大きさは、サンダル歩行の方が、19%大きかった(p < 0.0001).これらのインパクトピークに対する履物の影響は 効果質量の34%の上昇(p = 0.0001)とインパクト速度の12%減少(p = 0.015)に起因していた。そしてタラウマラ族と同様に、アメリカ人もサンダル歩行では、踵接地の時に2%大きく背屈していたが(p = 0.002)、 膝関節角度は有意な差がなかった。
タラウマラ族とアメリカ人のミニマリストシューズによる全体的な影響は非常に似ていたが、タラウマラ族のサンダル歩行でのインパクトピークとアメリカ人のサンダル歩行では有意な違いが明白であった(tables 1 and 2; figure 3)。タラウマラ族の踵接地の力成分は、統計的に歩行速度の変数を調整してみると、アメリカ人のサンダル歩行でのインパクトピークに関するloading ratesが54%低く(p = 0.002)、力積は52%大きかった(p < 0.0001)。「はだし」歩行でのインパクトピークの平均値は集団間である程度異なっていたが、有意な差ではなかった(tables 1 and 2; figure 3)。サンダル と「はだし」歩行でのインパクトピークの大きさは、タラウマラ族とアメリカ人の間で有意な差がなく、有効質量やインパクト速度、膝関節角度でも同様であった。踵着地の時にサンダル歩行では、タラウマラ族の方が、 7–8%大きく背屈していた(p < 0.0001)。
Discussion
ミリマリストシューズに対して「はだし」の時、ヒトの歩行のバイオメカニクス対する洞察を得るために、我々はメキシコの自給農民の原住民であり、ミニマリストサンダルを履いているタラウマラ族と、市販のミニマリストサンダルを着用したアメリカ人で同様に、地面反力と運動学的データを計測した。いくつかの下肢筋骨格系障害の病因の役割を担うと仮説して、踵着地の瞬間に発生するインパクトピークをいくつかの視点(大きさ、loading ratesと鉛直成分の力積)にフォーカスして、地面反力データを分析した。さらに、「はだし」と伝統的もしくは市販のサンダル条件で2つの集団から集められた力学的、運動学的データは、インパクトピークが「はだし」とサンダルで有意差が無い、有効質量と関節角度は履物条件間で類似しているという、どちらの仮説も支持しなかった。
タラウマラ族とアメリカ人の間で、ミニマリストサンダルで歩いた時のインパクトピークは、「はだし」歩行とは一貫して異なっていた。具体的には、サンダル歩行でのインパクトピークは、有意に大きく、loading rateがゆっくりで、鉛直成分の力積が大きかった。両方の集団において、ミニマリストシューズのインパクトピークに対する影響は、少なくとも部分的に、「はだし」歩行でのインパクト期間中のより大きな効果質量に起因していた。サンダルと「はだし」を比較すると、おそらく適度に足関節のコンプライアンスを減少させたため、足関節をより背屈して踵着地する傾向があった。それと同時に「はだし」歩行では、ミニマリストシューズへの適応もしくは、ミニマリストシューズの種類に関係なく、とてもミニマルなサンダルを履いたとしても、より軽やかに歩く傾向があるということをこの結果は示している。上記のアイディアと一致して、最近の研究では、ビーチサンダルのような底の薄い履物も含めた靴より「はだし」で歩く時の方が、我々の知見と同じように、全ての歩行サイクル中の最大外力が小さいと、報告している。そして、歩行中の地面反力をシューズは減少させるという以前の研究が否定された。ランニングでは明らかだったように、「はだし」歩行で発生するより小さな力成分は、「はだし」がもたらす必然的により大きな外受容によって、おそらく導かれるのだろう。従って、どんな種類の履物を履こうが、業者が「はだし」歩行を真似て”barefoot shoes”と主張しても、期待してはいけない。
ミニマリストシューズでの歩行中の力学と運動学に対する影響は、タラウマラ族とアメリカ人の間でとても似ていたが、2つの集団が着用したそれぞれサンダルでのインパクトピークは、異なっていた。具体的には、「はだし」歩行でのインパクトピークは集団間で有意差が無かったが、タラウマラ族はアメリカ人よりも高いloading rateと、小さな力積でインパクトピークを生み出していた。上述のように、サンダル歩行での集団間のインパクトピークの違いは、靴底のスティフネスが異なっていたことが原因かもしれない。機械試験の結果は、タラウマラ族のサンダルのソールがアメリカ人のサンダルより、少なくとも2.4倍硬いことを明らかにした。そして、ラボでコントロールされた実験では、より硬いソールはloadingの大きさにほとんど影響を及ぼさないが、足と地面の間の衝突率を上昇させ、必然的に力積を減少させることを示した。それでも全ての被験者が1種類のミニマリストシューズを履いて歩いたので、タラウマラ族とアメリカ人のサンダル歩行でのインパクトピークの違いは、サンダルのソールのスティフネスの違いよりもむしろ、部分的に歩行のバイオメカニクスにおける集団間違いによるかもしれない。アメリカ人が車の廃タイヤでできるサンダルを買いそうにないし、タラウマラ族はEVAでできたサンダルにたどり着かないので、両方の種類のサンダルを履いた計測は実施しなかった。さらに、両方の集団が同じサンダルに同じように反応するかどうかが我々の調査のゴールではなかったが、その代わりに、インパクトピークにおけるミニマリストサンダルの影響は集団間で類似していたことが明らかになった。市販品と伝統的文化の中で受け継がれている種類の両方のタイプのミニマリストシューズのデザインで、ソールのスティフネスの違いによるインパクトフォースの調査については今後の研究でより厳しく求めらる。
歩行(そしてランニング)によって発生するインパクトピークがどの程度、筋骨格系障害の原因となるかは、活発に議論されているが、本研究では検討されなかった。それでも、たとえ特定の種類のインパクトピークが筋骨格系の健康度にいくらかのリスクをもたらすとしても、進化の観点から、人類がすべてのインパクトピークが筋骨格系障をもたらすとは予想していない。二足歩行する人類と初期の類人猿は何百万年の間反復的なインパクトピークを経験していたが、その時間の大部分は「はだし」で歩いてきた。狩猟採集民が1日に平均10–14km歩くとすると、先史時代の裸足の祖先は1年に480万〜670万回のインパクトピークに一般的に耐えてきたと推定できる。それでもまだ、先史時代の人々が、今日の身体的に活発でない人々よりも、より大きな筋骨格系の変性疾患のリスクを持っていた、という化石の記録はないが、人体が長い一生涯の間、ピークが小さく、高いloading rateと小さな力積のインパクトが特徴の「はだし」歩行に耐えるために十分に長く適応してきたことを示唆している。そのようなインパクトは、ある程度、筋骨格系の健康度に、若干の良い影響を与えるかもしれない。しかし、ピークがより大きく、低いloading rateと大きな力積のインパクトが特徴シューズ歩行が潜在的にネガティブな影響に繋がることを検証する、更なる研究が必要である。
ミニマリストシューズは「はだし」歩行のインパクトピーク再現しないが、ミニマリストシューズの長所として足を強くするというエビデンスがある。アメリカ人の成人における前向き比較研究は、ミニマリストランニングシューズへ移行すると足部の内在筋が発達し、縦アーチが高くなることを示した。そして、タラウマラ族と成人アメリカ人の後ろ向き研究では、生涯を通したミニマリストシューズの使用が、大きな足部内在筋と歩行中に動的に硬い足に関連していることを明らかにした。より強い足部内在筋は、足部と下肢の硬組織と軟部組織の構造を高い負荷によるダメージから保護するかもしれない。
本研究には少なくとも3つの目立った限界がある。1番目に、我々はタラウマラ族の女性から満足できるデータを集めることができなかったので、すべての被験者は男性であった。しかしながら、女性を含めても大きく異なる結果が出てくるとは思っていないため、身体のサイズを修正した後にインパクトの男女差を予測するだけの理由はない。第2に、フォースプレートでラボで行われる研究で一般的に計測するよりも低いサンプリング周波数で、足圧計を使ってインパクトピークを計測したことである。そして、インパクト速度を計測するために用いたビデオカメラの最大記録率は、先行研究より低かった。これらの技術的理由により、本研究の被験者が一定の速度ではなく各々の至適速度で歩いたという事だけでなく、我々の力学的、運動学的データを直接、実験室から出てきたようなデータと比較することはいくらかの注意を要する。それでも、「はだし」とミニマリストシューズでの歩行の比較は、これらの問題に公平でなければならない。第3に、地面反力を計測した全ての研究への固有の限界は、足圧計またはフォースプレートであっても、人間が一般的に歩いたり走ったりするサーフェスの特性(特に農村環境のような自然のサーフェス)とは、足と衝突する基盤である素材の特性が異なっている。今後の研究は、「はだし」とミニマリストシューズで歩いた時に、自然なサーフェスがインパクトにどのような影響を及ぼすか考える必要がある。
我々の結果をまとめると、ミニマリストシューズは「はだし」歩行と比べて、インパクトピークと下肢の運動学を変化させることを示した。したがって、ミニマリストシューズは、人体を「はだし」で歩くのと同じバイオメカニクス的環境にさらす訳ではないと考えられた。これらの違いは、今回の研究対象のタラウマラ族のような、生涯通してミニマリストシューズを履いている人かどうか、もしくは、この研究のアメリカ人被験者のように、ミニマリストシューズの経験がほとんどないのであれば、有効である。今回の結果は、ミニマリストシューズの違う種類のソールの素材が、より硬いソールをつけた履物の方が、より高いloading rateと小さな力積を示したことで。インパクトピークを調整する上で重要な影響を与えている可能性も上昇させた。さらなる検証を必要とするこの仮説は、より硬いソールの履物が「はだし」歩行中の足部が経験するインパクトの環境(状況)により密接に近いことを意味している。人類の骨格が何百万年もの間、「はだし」で歩く衝撃(force)に対処するために進化したとすると、これらの衝撃(force)を変化させない履物を使うことは有益である場合がある、しかし、インパクトがどのように筋骨格系の健康に影響を及ぼすかという更なる研究がこの仮説を検証するのに必要である。
総評:A
「はだし」に近い生活を送っているタラウマラ族の歩行データを計測してまとめたことには価値がある。いわゆる原始人の歩行は現代人(都会人)のものとは異なる可能性があることが、今回のデータから少し見えてくる気がした。さらに、データセットを公開して、読者にも再検証の機会を与えている。動画で補足データを示す等、幅広い読者層に理解を促すために効果的な見せ方をしている。自分自身も論文を投稿する際には、見やすいデータ整理を心がけ誰が見ても納得できるものを示す必要があると感じた。 研究の限界(筆者)
女性の被験者を計測できなかった。
計測機器(足圧計、ビデオカメラのサンプリングレート)の技術的問題
実験環境でのサーフェスの問題
研究の限界
最高齢が70歳代と高く、年齢層による歩行動作の違いがデータにどう出ているか不明。
タラウマラ族の歩行動作は地面反力波形からも違いがあるのはわかったが、そのわずかな違いを分析するには、モーションキャプチャーで全身(せめて骨盤から下)の分析が必要だと感じた。
タラウマラ族の歩行
データセット